アニメ内キャラクターの特徴要素と人気度の関連分析

東京電機大学 工学部 情報通信工学科
ネットワークシステム研究室
指導教員 坂本 直志
15EC124 山本 隼斗

目次

1.はじめに
2.準備
2.1 深夜アニメ
2.2 アニメデータベース
2.3 Pixiv
2.4 RapidMiner
3.データの収集範囲と分析方法
3.1 データの収集範囲
3.2 データの分析方法
4.分析結果
4.1:全キャラクターを通しての分析
4.2:人気度平均以上キャラクターの分析
4.3:人気度平均以下キャラクターの分析
4.4:主人公キャラクターの分析
5.考察
5.1:分析結果の考察
5.2:決定木を用いた人気/不人気要素の決定
6.まとめ

1.はじめに

日本においてサブカルチャーを代表するテーマ「アニメ」。近年ではネット を通して配信される等、 アニメを見るという行為は時間を問わず、手軽で身近 なものとなっている。

さて、2018 年のアニメ市場全体の売り上げの内訳[1]を見てみると「商品化」が 「海外展開」に次いで収益があり、 全体の 25%程を占めている。人気度の高いキャラクターのグッズの方がより売り上げが見込める事は当然であり、 意図して人気キャラクターを生み出すことが出来れば、グッズそのものの収益はもちろん、 作品全体の収益の底上げにも貢献することが出来る。

本研究は収集した深夜アニメキャラクターの特徴要素の成分分析を行い、 キャラクターの特徴と人気度の相関を見出す。そして人気になりやすい特徴要素を 発見する一方で、 不人気になりやすい特徴要素を見つけ出し、 新しく生み出されるキャラクターが事前にどの程度人気が出るかを予測できるようになることを目的とする。

本論文の構成は次のとおりである。 2 章では準備として用語や知識の説明を行う。 3 章ではデータの収集方法と概要、収集範囲について触れる。 4 章では得 られたデータの相関に対して分析を4通りの観点から行う。 5 章では分析結果 の考察と決定木により人気不人気要素を発見する。 6 章でまとめる。

2.準備

2.1 深夜アニメ

深夜アニメとは、主に深夜(24 時前後)にテレビで放送される30分のアニメ作品である。 おおむね約3か月間全12-13 話を1クールとして構成される。近年のアニメはネット配信が盛んであり、 ネットでのタイムシフト視聴は既にリアルタイム視聴よりもユーザーが多くメインストリームとなっている。

また、コア層と呼ばれる週に6本以上視聴するユーザーは20代の視聴者が最も多いことが分かっている。[2] 本研究では深夜アニメの中でも「美少女アニメ」というジャンルに該当する、 主人公を含め登場人物に女性の割合が極めて多い作品を対象に集計を試みる。

2.2 アニメデータベース

アニメ作品の制作会社や放送時期などの基本要素はもちろん、 登場キャラクターの年齢や身長といった数値データから髪型、目の色性格等の要素を網羅しているデータベースのこと。 また、これらのデータベースをネット上で公開しているサイトをアニメデータベースサイトと呼び、 本研究では2つのアニメデータベースサイト「AniDB」、「アニキャラベー」を活用し、 キャラクターごとの特徴をExcel上に纏めたものを用いる。

2.3 Pixiv

イラストや漫画作品をアップロードし、同じ嗜好の人々と繋がることが出来るソーシャルネットワーキングサービスである。本研究では該当キャラクター名のタグがついた作品の総閲覧数を人気度として測定する。

2.4 RapidMiner

プログラミングなしに分類、パターン発見などの複雑な分析、可視化が 可能な分析ツール。本研究ではRapidMinerのフィルター機能を用いて収集し たデータを複数の条件から分析、人気度との関連性を検討する。

3.データの収集範囲と分析方法

3.1 データの収集範囲

深夜24時前後に放送される深夜アニメかつ、メインキャラクタ ーが女性のみの3〜5人で構成される20作品94キャラクターを対象に集計を行う。

「作品名」、「キャラクター名」、「人気度数」、「作品内人気順位」、「作品内人気度一位との人気比」、「目の色」、「身長」、「髪の色」、「髪型」、「髪の長さ」、「性格」、「個性」、「眼鏡の有無」、「声優」、「続編の有無」、「主人公かどうか」、「制作会社」の16項目を収集した。

その内、「目の色」、「身長」「髪の色」、「髪の長さ」、「髪型」、「性格」、「個性」、「眼鏡の有無」、「主人公かどうか」 の9項目をそのキャラを構成する特徴要素と分類した。

3.2 データの分析方法

キャラクターの特徴要素を2種のアニメデータベースサイト「AniDB」「アニキャラベー」から収集してExcelに纏める。Pixivにて、収集対象キャラクターの名前のタグが付いた投稿作品の総閲覧数を人気度とし、作品内の人気度一位キャラクターの人気度数に対する人気度数の比率を、該当キャラクターの人気比とする。

収集したデータを「RapidMiner」へ取り込み、Process領域へ取り込んだデータを配置、Operatorsを組み合わせて条件を絞り込み、出力結果から人気度と特徴要素の関連性を検討する。

4.分析結果では「全キャラクター」、「全人気比の平均である56.8%以上のキャラクター」、「人気比平均未満のキャラクター」、「主人公のキャラクター」の4条件で分析する。

4.分析結果

4.1 全キャラクターを通しての分析

図1 全キャラクターを求めるプロセス
図1 全キャラクターを求めるプロセス
図2 全キャラクターの分析結果 1/2
図2 全キャラクターの分析結果 1/2
図3 全キャラクターの分析結果 2/2
図3 全キャラクターの分析結果 2/2

図2、3は全94キャラクターを対象にして実行した結果である。 人気比の平均は「56.8%」 続編制作率は「47.9%」となった。

・全キャラクターで最も多く共通していた特徴要素 主人公率は「22.9%」 身長の平均は、「154.917cm」 眼鏡着用率は「8.6%」 最も多い目の色は「青色」 最も多い髪型は「ロングヘアー」 最も多い髪色は「金髪」 最も多い髪の長さは「腰を超える」 最も多い性格は「元気」 最も多い個性は「巨乳」 となった。

これらの要素が美少女アニメにおいて最頻の特徴要素、つまりありがちな要素ということになる。

図4 身長と作品内人気順位の相関図
図4 身長と作品内人気順位の相関図

図4は縦軸に身長、横軸は作品内人気順位を示したものである。また、
作品内人気1位20キャラクターの平均値は153.389cm 平均の人気比は100%
作品内人気2位20キャラクターの平均値は152.167cm 平均の人気比は69.4%
作品内人気3位20キャラクターの平均値は152.778cm 平均の人気比は48.6%
作品内人気4位20キャラクターの平均値は157.471cm 平均の人気比は32.5%
作品内人気5位14キャラクターの平均値は160.462cm 平均の人気比は23.4% となった。

1位2位3位の人気度は平均身長である154.917cmよりも低く、 4位5位は154.917cmよりも高くなっていることが分かった。特に図3の分布から分かる通り、4位5位には身長150cm以下のキャラクターはほとんどいないことがわかる。

このことから、身長が低い方が人気に、高い方が不人気になりやすい ということが推察される。

4.2 人気平均以上のキャラクターの分析

図1の人気比の平均である56.8%を超える46キャラクターに限定して分析を行う。このキャラクターたちに最も多かった特徴要素が人気になりやすい要素であると推察される。

図5 人気比平均以上のキャラクター達の平均人気比
図5 人気比平均以上のキャラクター達の平均人気比

人気比の平均は「86.7%」続編制作率は「47.8%」となった。

・人気比平均以上のキャラクターに最も多く共通していた特徴要素 主人公率は「34.8%」 身長の平均は「152.976cm」  眼鏡着用率は「2.2%」 最も多い目の色は「青色」 最も多い髪型は「ロングヘアー」 最も多い髪色は「金髪」 最も多い髪の長さは「首までの長さ」 最も多い性格は「元気」と「優しい」 最も多い個性は「巨乳」 となった。

図6 人気比平均以上のキャラクター達の平均身長
図6 人気比平均以上のキャラクター達の平均身長

身長平均が全キャラクター身長平均の154.917cmよりも2cmほど低くなっているという点は、4.1の身長が低い方が人気になりやすい という説を裏付けている。

また、主人公率も全キャラクターの平均と比較して10%以上多い傾向があることが分かった。

ここで、人気になりやすいと推察される特徴要素である青目、金髪、ロングヘアー、首までの長さ、元気、優しい、巨乳の7つの特徴要素に該当する109キャラクター(同一キャラ重複可)で分析した結果、人気比の平均は61.6%となり、あまり高いとは言えない割合となった。

4.3 人気度平均未満のキャラクターの分析

図1の人気比の平均である56.8%に満たない48キャラクターに限定して分析を行う。この時に最も多かった特徴要素が不人気になりやすい特徴要素であると推察される。

図7 人気比平均未満のキャラクター達の平均人気比
図7 人気比平均未満のキャラクター達の平均人気比

人気比の平均は「28.1%」 続編制作率は「43.8%」となった。

・人気比が平均以下のキャラクターに最も多く共通していた特徴要素  主人公率は「10.4%」 身長の平均は、「156.767cm」  眼鏡着用率は「13.3%」 最も多い目の色は「青色」 最も多い髪型は「ロングヘアー」 最も多い髪色は「茶髪」 最も多い髪の長さは「腰まで」 最も多い性格は「ツンデレ」 最も多い個性は「食いしん坊」 となった。

最も多い人気要素であった青色の目、ロングヘアーは不人気要素においても最も多い要素であることが分かった。

4.2において、人気になると想定された特徴要素をのみで集計した結果、人気比の平均が伸び悩んだ理由として、人気比平均以上だけでなく、平均未満においても最頻していた特徴要素であった青目、ロングヘアーの要素を含んでいたことが理由だと推察される。

たとえ人気要素を幾つか持っていたとしても、不人気になりやすい要素を別に含んでいた場合、人気度は伸びにくくなるということが分かった。

図8 人気比平均未満のキャラクター達の平均身長
図8 人気比平均未満のキャラクター達の平均身長

平均身長は156.767cmと平均身長と比較してやはり高い傾向にあった。 4.1、4.2、4.3から身長が低い方が人気に、高い方が不人気になりやすい という説は正しかったことがわかる。

また、人気比平均以上の主人公率は34.8%、人気比平均以下の主人公率は10.4%と、身長と同様に主人公である方が人気になりやすい ということも判明した。

その他に不人気要素が含まれると続編制作率が低くなる点、眼鏡の着用は不人気なりやすい等の傾向を発見することが出来た。

4.4 主人公キャラクターの分析

主人公の要素があれば人気になりやすい事は4.2 4.3から判明したが、主人公キャラクターのみで分析した場合に傾向はあるのか。結果を以下に示す。

図9 主人公キャラクターの人気比
図9 主人公キャラクターの人気比
図10 主人公キャラクターの人気順位
図10 主人公キャラクターの人気順位

人気比は76.9%とかなり高く、「主人公」は人気になりやすい特徴要素であると推察できる。作品内人気順位の内訳を見ても、1位2位が圧倒的に多く、3位以降になる確率が大きく下がる。という結果も得ることが出来た。 少なくとも主人公であれば、他に如何なるマイナスの要素があったとしても、一定以上の人気が得られると考えることができる。

図11 主人公キャラクターの平均身長
図11 主人公キャラクターの平均身長

最も興味深い点は主人公キャラクターの平均身長にあった。 平均149.276cmと全体平均である154.917cmと比較して低身長の傾向にある。 これは、アニメ内主人公は物語の起承転結によって「挫折した後に精神的に成長」する描写が多く、故に主人公は始め未熟なキャラクター付けが成されやすい。低身長もこのイメージ付けの一環であると考えれば、この平均身長の低さにも合点がいく

図12 主人公キャラクターの眼鏡着用率
図12 主人公キャラクターの眼鏡着用率

また、主人公の眼鏡着用率が0%な点も、一般に眼鏡キャラクターが不人気になりやすい説を裏付ける一因となっている。 確かに、高身長で眼鏡を付けた主人公像はイメージが湧きにくく、同時にこのキャラクターが人気になるような見通しは立ちそうにない。

5.考察

5.1 分析結果の考察

身長と人気度に関連があることが判明したが、ここで詳細を考察する。

図13 身長と人気比の相関図
図13 身長と人気比の相関図

横軸が人気比、縦軸が身長、青色の点が人気比平均以上、赤色の点が人気平均以下のキャラクターである。

不人気のキャラクターには確かに高身長が多く、特に165cm近辺のキャラクター数に人気-不人気間で大きな差がみられる。しかし、低身長の不人気キャラクターや、高身長の人気キャラクターは決して存在しない というわけではないことが分かった。

次に、主人公と人気度にも関連について考察する

図14 主人公と人気比の相関図
図14 主人公と人気比の相関図

主人公という特徴要素を所持している場合、人気になりやすいというのは正しかったことがわかる。
ただ人気になるだけでなく、人気比が比較的高い位置にあるものが多い事から、主人公は大人気になりやすい要素ということが推察できる。
また、主人公ではないからといって不人気になりやすいというわけでもないため、主人公という要素は人気を後押しするような特徴要素であることがわかる。

次に、眼鏡の着用と人気度の関連性を考察する。

図15 眼鏡と人気比の相関図
図15 眼鏡と人気比の相関図

横軸が人気比、縦軸が眼鏡を付けているどうか、青色の点が人気比平均以上、赤色の点が人気平均以下のキャラクターである。
やはり、眼鏡を付けているキャラクターが圧倒的に不人気になりやすいようことが判明した。 主人公と同様に、付けていないからといって人気になりやすいというわけではないため、眼鏡はキャラクターの人気をただ下げる特徴要素であることがわかる。

5.2 決定木を用いた人気/不人気要素の決定

身長や主人公、眼鏡の有無が人気に深く関連していることが判明した。 ここで、RapidMiner上で決定木を作成し、人気になるか、不人気になるかを決定づける要素は何なのかを判断させ、本当に身長、主人公、眼鏡が人気に関連しているのかを検討する。

人気比が平均以上になればTRUE、平均以下になればFALSEを返すようにExcel上で計算し、これをLabel(目標変数)としてRapidMinerに取り込む。 作品内人気一位を決定づける特徴要素、人気比平均以上を決定づける特徴要素、人気比平均未満を決定づける特徴要素の3条件を検討する。

図16 決定木作成のためのプロセス
図16 決定木作成のプロセス

作品内人気一位の決定木は以下の結果が得られた。

図17 作品内人気一位の決定木
図17 作品内人気一位の決定木

どちらの枝もFALSEとなっているため、この要素さえあれば作品内で人気一位になる という要素は存在しないことがわかる。 眼鏡を付けていなければなる可能性がある 程度のものであった。

人気比平均以上の決定木は以下の結果が得られた。

図18 人気比平均以上の決定木
図18 人気比平均以上の決定木

こちらでも眼鏡の有無が重要になっている。眼鏡を装着していない主人公であった場合、高い確率で人気になるということがわかる。

人気比平均未満の決定木は以下の結果が得られた。

図19 人気比平均未満の決定木
図19 人気比平均未満の決定木

条件が不人気になるかどうかなのでTRUE,FALSEの評価が反転している。 やはり眼鏡が最も重要な要素となっている。興味深い点として、眼鏡を付けていても紫色の目だと人気になる可能性がかすかに残っていることが判明した。

眼鏡がない主人公は人気になるというのはこの条件においても発見することが出来た。

6.まとめ

本研究ではキャラクターの特徴要素と人気度の関係性を調査した。
結論としては主人公であれば人気に、眼鏡を付けていれば不人気になりやすいということが分かった。また、身長と人気度の関連、深夜アニメにおいて最頻される特徴要素の判明や特定の要素を所持している場合に今日映して商事する確率の高い要素などの傾向も多く明らかになった。

しかし、必ず人気なる、不人気になる、と断言できる要素の発見には至らず、個性や性格など、簡単に決定できないデータに欠損が多かった点、キャラクターの人気は一概に特徴要素だけで決定できず、アニメのストーリーや登場頻度によって多く左右される点、人気要素を数多く含んでいるからと言って、最終的に好まれるかどうかは個人の嗜好に依存する点など不確定要素が多く、データの信頼性が薄い点は見過ごすべきではない。

今後の課題として、身長を除いた特徴要素を数値化できず、可視化機能を強みとするRapidMinerを活かしきれていなかった点、作品公開年代ごとに人気が出やすい特徴要素の関連性、視聴者の年齢やターゲット層の違い、メジャー・マイナーアニメ視聴層の嗜好の違い、キャラクターの見せ場の多寡など、単純には数値化、データ化できないような問題を検討したい。

7.付録

図20 収集・使用したデータ 1/3
図20 収集・使用したデータ 1/3
図21 収集・使用したデータ 2/3
図21 収集・使用したデータ 2/3
図22 収集・使用したデータ 3/3
図22 収集・使用したデータ 3/3
図23 人気比平均以上のキャラクターを求めるプロセス
図23 人気比平均以上のキャラクターを求めるプロセス
図24 人気比平均以上のキャラクターの分析結果 1/2
図24 人気比平均以上のキャラクターの分析結果 1/2
図25 人気比平均以上のキャラクターの分析結果 2/2
図25 人気比平均以上のキャラクターの分析結果 2/2
図26 人気比平均以上のキャラクターの最頻要素を求めたプロセス
図26 人気比平均以上のキャラクターの最頻要素を求めたプロセス
図27 人気比平均以上のキャラクターの最頻要素の人気比
図27 人気比平均以上のキャラクターの最頻要素の人気比
図28 人気比平均未満のキャラクターを求めるプロセス
図28 人気比平均未満のキャラクターを求めるプロセス
図29 人気比平均未満のキャラクターの分析結果 1/2
図29 人気比平均未満のキャラクターの分析結果 1/2
図30 人気比平均未満のキャラクターの分析結果 2/2
図30 人気比平均未満のキャラクターの分析結果 2/2

8.参考文献

[1]アニメ産業市場、5年連続で最高値2兆円に到達[VTuber]など市場定義に課題も
https://animeanime.jp/article/2018/12/10/41996.html

[2]日本におけるアニメ視聴の概況
https://www.f-ism.net/ebi/mreport/r00000000047/

[3]Pixiv
https://www.pixiv.net/

[4]RapidMiner
https://www.rapidminer.jp/

[5]AniDB
http://anidb.net/perl-bin/animedb.pl?show=main

[6]アニキャラベー
https://www.animecharactersdatabase.com/