東京電機大学神田キャンパスは2011年4月より北千住キャンパスへと移転した。神田キャンパスは多くの卒業生が学んだ創設の地であり、知的立地条件がとても良かったが、教育環境としては、建物の老朽化と狭いキャンパスの解消が大きな課題となっていた。また、都心にあるため建物が点在してキャンパスとしては分散されていた。 北千住キャンパスには様々な省エネ技術が導入されており、キャンパスの面積も広く、非常に快適になっている。そこで、建築物に対する評価はさまざまであるが、ここではSD法(Semantic Differential Method)を用いてユーザーに対して北千住キャンパスに対する評価を求めて考察することを主目的としている。
熱エネルギーを蓄え、必要な時に熱エネルギーを放熱するシステム。冷房、冷蔵用などの冷熱蓄熱と暖房や給湯用の温熱蓄熱がある。 夜間に熱を蓄えて、昼間に放熱して空調などに利用するため、昼間電力の削減や高効率なヒートポンプと組み合わせることで省エネ・省CO2などのさまざまなメリットがある。
昼間のピーク時間帯使われる電力を夜間へ移行するため、電力の負荷平準化が可能です。 たとえば空調は事務所建物の電力消費の半分以上を占めており、夏や冬の昼間時間帯における電力増の主要因となっています。 空調にヒートポンプ・蓄熱システムを導入することで、昼間の空調に必要な冷熱の半分を蓄熱でまかなった場合、昼間最大電力を約2割削減※することが可能です。※建物規模・用途等で削減量は変化する。
蓄熱槽を活用することで、ヒートポンプは常に変化する空調負荷に影響されずに効率的な一定運転が可能となります。冷房時は夜間の涼しい外気を利用して冷熱をつくるため、ヒートポンプの効率がさらに向上します。(外気温25℃稼働時では35℃稼働時に比べてヒートポンプの効率は約2割向上します。)
熱源設備容量を小さくできるので、契約電力削減により基本料金が抑えられます。 電気料金メニューの活用により、夜間の割安な料金を利用できます。
非常災害時には、蓄熱槽の水を生活用水や消防用水として活用可能です。
北千住キャンパスには、エコ技術の最先端である"世界初"の連結縦型蓄熱槽を採用している。 「ヒートポンプ」とはエアコンやエコキュート(給湯機)等で使われている最新のヒートポンプ・蓄熱システムで、大気中や地中などの自然界の熱を汲み上げて利用する技術である。CO2の大幅な削減につながる注目のエコ技術である。外見は、直径約2.5メートル、長さ約10メートルのタンクが冷暖房用の冷水や温水を蓄える設備である。この中は水で満たされており、電力利用の少ない夜間に氷や冷水、またはお湯を作り貯蔵しておき、その冷水やお湯を室内のエアコンの吹出し装置へ送り、冷風や温風にして、建物の空調を行なうという仕組みである。
タンクは大きくて重いため、通常、建物とは別に地上に置かれる。しかしその際は地震で揺れないように高さを低くするため、断面積が大きくなってしまい場所をとる、あるいは支える基礎部を頑丈に作る(コスト増と工期の長期化)などが難点であった。そこで、北千住キャンパスでは、スリムな蓄熱槽をタテに連結させ建物内に納めること(各タンクは独立しており建物の梁に懸垂)に挑戦し、設置に成功した。連結縦型蓄熱槽は、各階に設置した小さなポンプで、必要な階にだけ冷水やお湯を送れるので、ポンプの消費電力が大幅に抑えられる利点もある。蓄熱槽をタテに連結するのは、世界でも初めての試みであったが、本学の取り組みをきっかけに既存建物への設置やCO2排出量の削減等の効果が期待されるところである。加えて、震災時にはトイレ洗浄水などの中水として供給される。
東京千住キャンパスでは、蓄熱槽を1号館に5層×2缶、4号館に3層×2缶を縦に連結させ、全部で16缶設置している。
二枚のガラスとその間に太陽光追尾型自動調光ブラインドを内蔵した構造で、下部にあるスリットから室内空気を取り入れて、二枚のガラスを通過して上部から排気する窓システム。夏期には日射熱を排気できるので冷房負荷が低減でき、また、冬期には窓面の冷えを防ぐことができます。ブラインドを自動制御することで、直射日光の侵入を最小限にし、さらに光環境・視環境に対しても良好な環境が得られます。内臓のブラインドは、4号館屋上に設置された太陽光追尾センサーからの情報を基に、1、2、4号館のすべてが刻々と、日射遮蔽のための適切な角度に作動する。
大学の教室は企業のオフィスと異なり、出席者数や座る位置、時間割により、使用する照明と空調の変化が大きいという特徴があります。そこで、新キャンパスでは、LED採用等の他、情報システムと連携した各種センサ(明るさセンサ、人感センサ、CO2センサ)や、出席管理システムなどを駆使して、「必要なとき、必要な場所に、必要な分だけの照明・空調」を行えるよう工夫しています。そこでまた変動微風空調で風も利用しており、冷房では変化をもたせた風を送風して体感温度を下げる工夫をしている。
変動微風空調システムは従来空調と異なり、0.4〜0.6m/s 程度の間欠的な気流を人体に曝露する空調方式で、気流を間欠的に曝露する装置としてiD※1やiVAV※2を必要としている。"不快でない程度の微風環境"を形成する事で、冷房時の室温緩和・搬送系動力の削減などの利点を、さらに効果的に引き出す事が可能となる。本空調方式は、高い省エネルギー性を追求する事に重点を置き、快適性に関しては人間が許容しうるレベル(不快感を伴わない)が維持できれば良いとするものである。また、未来科学部建築学科の射場本教授が開発した技術を実用化するものです。
以下は射場本先生のお言葉です。「人がいるところだけ空調します。」と いうものです。学校では世界初ですが、仕組みは、扇風機ほど強くないです が吹き出し口から人に向かって風速0.4〜0.6mの風が吹きます。それが、冷 たいドライな空気なのです。ですから、28度でも全然暑くありません。人に ふっと吹いて、そのままだと寒いのでふっとやむわけです。そして、足下が 冷たくならないようにその吹き出しの空気が次のところへ行くのです。特に、 広い教室で人数が少ないとき学生に前においでよと呼ぶんです。そんな時、 「後ろは、暗くて暑いぞ」と言えますね(笑)。この空調は実際に、あるオ フィスで3年間試験的に導入して使用しましたが、だいたい熱源エネルギー が1割減ります。1割って大きいでしょ。※1 iD (intermittent damper)→ 間欠的な気流を生成するための装置(ダンパー)※2 iVAV (intermittent VAV)→iD とVAV の機能を複合したユニット装置
教室では、徹底したスケジュール管理を行い、照明は明るさセンサや人感センサで、空調は温感センサにより制御し、必要なとき、必要な場所に、必要な分だけの照明・空調を行います。また不在教室の電源は落とすなど無駄を省き、省エネを図ります。さらに冷房では変動微風(間欠吹出)を用いることで、体感温度を下げる工夫もします。また、学生・教員の在室管理や教室のスケジュール管理を空調や照明の運転制御と連動させるなど、情報システムと連携した省CO2を図ります。
地中熱を利用したヒートポンプでの、ロッジアの床冷暖房。また、各棟屋上に太陽光発電パネルを設置し、直流送電で変換損失を低減しています。この仕組みがロッジアの下に入っています。オープンエアー空間なのですが、石の下に敷設したパイプにより冬は床暖房、夏は輻射冷房となります。そして災害時にはビニールカーテンでそこを囲って避難所になる、というコンセプトです。
北千住キャンパスを評価するうえで、情報通信工学科2,3,4年生には神田キャンパスと比較して、1年生には半年間北千住キャンパスを使用してのキャンパスの意識調査を行い、アンケートから得られた結果を元に、北千住キャンパスを評価する。
情報通信工学科の学部生199名(1年134名、2年36名、3年27名、4年5名)に対してSD法(Semantic Differential Method)の質問用紙を配布して回答させた。質問用紙の配布は2012年11月頃から実施している。質問用紙は、【設問1】各教室における快適さについての質問を15項目、【設問2】授業時間外の憩う場所と雨天の昼食場所についての質問を記述で2項目、【設問3】SD法を用いた20対の評定尺度(形容詞対)、【設問4】食堂の使用頻度やメニューの人気・要望を5項目としている。【設問1・3】の回答は1〜7点に点数化し、【設問3】SMC・バリマックス回転を用いて因子分析を行い、北千住キャンパスの印象を分析した。
設問1は北千住キャンパス2号館各教室・2号館メディアセンター(1、2階)・2号館メディアセンター(4階PCルーム)を各教室における快適さについての質問を15項目用意している。各項目を学年ごとに分別して平均値をまとめたものが表1である。2〜4年は神田キャンパスと東京千住キャンパスを比較してアンケートをとったので、各項目を1年と2〜4年でまとめ、図6に示す。1年生は4以上の数値とっており、概ね満足であるが、メディアセンターの周囲の騒音・本の種類、PCルームのPC性能が4以下で不満であることがわかった。2〜4年もほぼ4以上の数値であるがPCルームのPCの性能だけ4以下であった。神田キャンパスよりもユーザーは概ね満足しているという結果だと思われる。
設問2は (1)授業後に友人と憩う場所(図7)と(2)雨の日の昼食をどこで食べているかの 質問を2項目、記述式で用意している(図8)。 また(1)、(2)の回答をまとめたものを表2に示す。 (1)図7からわかるように1年生は生協前などの大人数で集える場所の回答が多 く、2〜4年は教室や部室、ラウンジの回答が多くなっている。 (2)図8からわかるように食堂や教室の回答が最も多いが、学年の行動パターン によって様々な場所に票が分かれていることがわかる。これは学内に様々な 学生のフリースペースが増えている結果であると考えられる。
因子分析とは、多変量データに潜む共通因子を探り出すための手法である。
全体の分散にどれくらい、それぞれの因子が影響を及ぼすのかを表す量である。
各変数と各因子の相関を表す数値である。0から±1の値をとる。
各変数と因子空間との相関を表している。各変数が因子軍によってどれだけ説明できるかを示す数値である。0から1の値をとり、導かれた因子群ですべて説明できると1となります。これは、独自因子(誤差)項が0であることを意味します。重相関係数の2乗を用いて共通性を推定すると、共通性は、各因子負荷量の2乗和となります。
ある因子がどの程度の説明力を持っているか割合を表している。
・因子得点各因子と各個体(対象者)の相関の程度を表します。 因子得点が高い人は、その因子に影響されている度合いが高いと言える。
今回使用した回転法はバリマックス回転である。回転とは人間がデータを解釈しやすいように行う行為である。バリマックス回転は軸に直交で、できるだけ因子負荷を「単純構造」に近づけるよう回転させる。単純構造とは、それぞれの項目の因子負荷が特定の因子だけに大きく、残りの因子に対しては非常に小さいような構造を指す。
199名のアンケートにより得られた回答をもとに20対の評定尺度(形容詞対)を因子分析にかけた結果、カイザー基準により固有値が1以上を基準にして5因子に分けることとした(表1)。各因子軸の内容を明らかにするために、各因子に対する因子負荷量が絶対値で、負荷の高い順に並べたものが表2である。表2からして各因子軸は第一因子が広さ因子、第二因子が好感度因子、第三因子が印象因子、第四因子が過ごしやすさ因子、第五因子が環境因子と呼ぶことが言える。また、第一因子総合因子と第五因子快適度因子を軸にとり、因子得点をもとにグラフに表す。
設問4は食堂の使用頻度やメニューの人気・要望を5項目用意している。
(3)食堂の利用頻度を学年別にまとめたものを表6と図12に示す。図12からわかるように、大多数の学生は食堂を利用していないことがわかった。これは北千住では安価で食事できるところが多数あることが原因と考えられる。
(4)食堂の美味しいメニュー、まずいメニュー、コストパフォーマンスの高いメニューを問う質問を全学年でまとめてランキング3位までを表に示す。食堂利用率が低いことからメニューの人気は有意な集計ができなかった。
(5)食堂に対する要望を記述式で記入してもらった結果をいくつか示す。食堂に対する要望は全体的に値段が高いことが多く見られた。2〜4年では神田キャンパスと比較しても高いという声があがっていた。これもキャンパス周囲に安価で食事が出来るところが多数あるからだと考えられる。
1年生
2年生
3年生
4年生
本研究では東京電機大学東京千住キャンパスの各省エネ技術の調査と東京 電機大学工学部情報通信工学科の学生を対象にしてアンケートを行った。そ の結果、先進的な省エネ技術が導入されており、学生は学内環境に概ね満足 していることがわかった。ただし学年により行動のパターンは異なり、施設 の評価している場所はそれぞれ別であることもわかった。
東京千住キャンパスの移転の理由として、建物の老朽化と狭いキャンパスの解消が大きな課題となっていた。この点については設問1と設問3からわかるように学生は満足の結果を示している。また、設計者の意図として東京千住キャンパスは古のギリシャの都市の中心にあった公共空間「アゴラ」をイメージしており、「新キャンパスで学ぶもの、研究にいそしむもの、訪れるものに'歓び'を与える場所を作り出すことを目標としたい」というコンセプトのもと、東京千住に現代版としてのアゴラ空間を実現している。この点については今回の調査では結果が出てこなかった。別の観点でのアンケート調査が必要であると考えられる。
本研究を進めるにあたりご指導いただいた東京電機大学未来科学部建築科朝山秀一教授、同工学部情報通信工学科坂本直志准教授に厚く御礼申し上げます。