1.はじめに

1−1.概要

近年ネットワーク技術が発達し、世界中のコンピュータが通信できる通信網が形成されています。この通信網の事をインターネットと呼び、私たち一般家庭の中でも、プロバイダを通して簡単にそのインターネットの端末として参加することができます。

もともとインターネットは、軍事研究からはじまりました。1957年にソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げた事が、冷戦状態にあるアメリカに大きなショックを与えました。これに対しアメリカは、ソ連に対する科学技術、軍事上の優位性を確保するためにNASAとARPAを設立し、国防研究に力を入れるようになりました。

一方1962年に、軍事研究機構であるRANDに所属していた、ポール・バランが、核戦争にも耐えうるネットワーク「分散型通信ネットワークについて」という報告書を発表しました。これは中央機構を置かず、全ての機器を平等にし、それぞれを複数のルートでつないでいくというものでしたが、この当時はまだ注目されていませんでした。

また1967年に、イギリスのドナルド・デイヴィスが初めて「パケット」という言葉を使い、英国物理研究所で、パケット交換の実験を開始します。

ARPAのその後の研究は、初代室長リックライダー、2代目室長アイヴァン・サザーランドと続き、1969年に3代目室長であるロバート・テイラーにより、にアメリカの4大学・研究所(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校、スタンフォード研究所、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ユタ大学)の4台のコンピュータによって組まれたネットワーク、「ARPAネット」が誕生しました。このときUCLAから発信した login の文字をスタンフォード研究所のコンピュータが受信し、初めてパケット交換が行われました。このARPAネットが、現在のインターネットのはじまりとなっています。

その後の研究により、ネットワーク上でのルールの一つであるTCP/IPというプロトコルが開発され、1990年にTCPを利用した初めてのブラウザ「WWW」が登場しました。WWWはことのき、画像の表示ができないものでしたが、1993年にイリノイ大学により開発された、ビットマップ画像を表示する機能がつき、初心者でも簡単にインストールできる「モザイク」を発表したことが、ブラウザの普及に大きな弾みをつけました。日本で普及し始めたのは1995年で、Windows95 Plusの販売と共に無料配布された「インターネットエクスプローラー」が広く利用されていました。

1995年当時、一般家庭でもインターネットが普及し始めた頃、接続方法は電話線を利用したダイアルアップ方式が主流でした。通信速度は最大でも 56kbit/s 程度しか出ず、巨大なファイルをダウンロードしたり、リアルタイムで大量のパケットを送受信をすることは困難でした。ところが2000年に入り、ADSLや光ファイバーなどを利用したプロバイダが増え、通信速度が飛躍的に上がりました。以前のモデム通信と光ファイバーを比較してみると、56kbit/sから100Mbit/sと、およそ2000倍もの差があります。通信速度が上がることによって、今までより高品質なサービスを提供することができるようになりました。

しかしここで注意すべき点は、私たちが利用している全ての端末の通信速度が、上がったというわけではないことです。現在のインターネットは、通信速度が遅い端末、速い端末が入り乱れています。電子メールなどリアルタイム性が必要でないサービスは低速回線でも高速回線でも問題はありませんが、リアルタイム性が必要なサービスの場合、電子取引の優劣に影響を与えてしまうことが十分考えられます。

本研究では回線速度の異なる環境において、等しくサービスを行うことができるような仕組みを考案しました。このサービスをモデル化するため、実際にはトランプゲームである「スピード」を取り上げました。スピードは基本的には相手の動作を待つことがなく、常にリアルタイムで進行します。詳しいルールは2章で説明しますが、そのルールの中に、お互いが手札から場にカードを出したとき、早い方が勝つというルールがあります。これをいかにネットワーク通信で平等に行えるかが本研究の課題です。その結果、時間の同期を計るプロトコルを使用したタイマーを作成し、相手に送信するメッセージの中に通信を開始してからの時間を含めることにより、平等なプロトコルが実現しました。

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