現代社会において通信ネットワークの果たしている役割は大きく、電気、ガス、水道、道路などと並び、社会のインフラストラクチャを形成していると言っても良いだろう。さらにネットワークの技術やサービスは、開発および研究が日々行われており進歩していると言える。こうしたネットワークの技術やサービスの開発や提供、利用、あるいはサポートをするIT企業の技術者には、業務に携わる上でネットワークの知識がなくてはならない。そのため企業は、ネットワークについて正しい知識を持った人材を育成しなければならない。そこで、企業では新入社員にネットワークの正しい知識や技術を収得させるための社員教育が行われる。
筆者は大学を卒業後にIT企業に入社し、技術者としてネットワークに携わるため、入社後にはネットワークについての社員教育を受ける。しかし、新入社員の中にはネットワークについて学生時代に学習経験のないものも含まれている。そこで、入社後の社員教育を受ける前にネットワークについて導入程度の知識をつけることは、入社後の教育の効果を高めるために有効であると考えた。しかし、ネットワーク技術者としての教育を受けられる程度のネットワークの知識を効率的に学習できる教材は少ない。
一般に、ネットワークを学習する主な方法として、大学や専門学校などの教育機関で講義や実機を使った実習などを受けて学習する方法や、入門書などの書籍や個人や企業の公開している学習支援のWebサイトなどを利用して学習する方法、情報処理試験やネットワークに関するベンダの資格試験などの資格試験対策を通して学習する方法などが挙げられる。
そこで本研究は、新入社員を対象にネットワーク技術者としての教育を受けられる程度のネットワーク基礎知識を、より効率的に学習させる新入社員教育用の教材を作成することを目的とし、実際に教材の作成を行った。またネットワークの学習方法は、学習者が教材を用いて独習する学習方法を採用した。
2章では代表的な既存の教育教材の教育手法を分析し、目的の教材に適した教育手法について検討する。3章では検討結果に基づいて作成した教材を提案する。4章では作成した教材について既存の教育教材と比較し、目標が達成できているかを評価する。5章ではまとめと今後の課題をについて述べる。
この章では、既存のネットワークの教育教材を目的や構成、教育手法などで分類し、それらの教育手法が本研究の目的とする教材に適すかどうかを検討する。
まず、既存の教材を「資格試験参考書」、「問題集」、「教科書」、「入門書」、さらに特殊な教材として「インターネット物理モデル」を加えた5つに分類し、その特徴や利点について述べる。その後、それらの教育手法が本研究の目的とする教材に適すかどうかを検討する。
ここでは資格試験参考書について、情報処理技術者試験参考書とベンダ資格試験参考書を例に挙げ、目的や対象とする学習や、構成、用いている教育手法などの紹介をする。それらから資格試験参考書の構成や教育手法についてまとめる。
ここでは情報処理技術者試験参考書の例として、早川 芳彦による『ITパスポート試験標準教科書』[1]について考察する。この教材の目的は、学習者に国家試験であるITパスポート試験に合格するための知識を習得させることである。扱う学習項目は、受験するITパスポート試験に出題される範囲を網羅するように設定されている。学習対象者は、ITパスポートの資格の取得を目指す者である。教材の構成は、全7章からなり、1章は6節から28節の複数の節で構成されている。各節は「ネットワークの基礎」や「プロジェクトマネジメント」、「システム戦略」のように扱うテーマが決められている。各節では扱うテーマの概要を説明した後、練習問題の出題と解答、解説がなされている。教材に用いている教育手法は、学習対象をできるだけ細かいステップに分割し、各ステップでは概要の説明を行った後、問題によって学習結果を確認するものである。教材の特徴は、「ネットワーク」などのテクノロジ系と「プロジェクトマネジメント」などのマネジメント系、「システム戦略」などのストラテジ系というように、幅広い分野を全般的に学習させることである。一方で、基礎的な資格である上に試験範囲が広いため、一つ一つの分野について扱っている内容は浅く少ないと言える。
ここではベンダ資格参考書の例として、ソキウス・ジャパンによる『徹底攻略Cisco CCNA/CCENT教科書ICND1編』[2]について考察する。この教材の目的は、学習者にCiscoのベンダ資格であるCCNA/CCENTの資格試験に合格するための知識を習得させることである。扱う学習項目は、受験するCCNAのICND1という試験に出題される範囲を網羅するように設定されている。学習対象者は、この資格の取得を目指す者である。教材の構成は、全14章からなり、各章では「ルーティングの基礎」や「Ciscoルータの起動と基本設定」のように決められたテーマの概要を説明した後、動作や設定方法の説明が続き、最後に演習問題とその解答、解説がなされている。教材に用いている教育手法は、情報処理試験参考書と同様に学習対象をできるだけ細かいステップに分割し、各ステップでは概要の説明を行った後、問題によって学習結果を確認するものである。教材の特徴は、構成されている章を順番に学習することでネットワークの全般的な知識を体系的に学習できることである。具体的には、前半の章では「ネットワークの基礎とOSI参照モデル」、「TCP/IPプロトコル」、「IPアドレス」などの基本的事項について解説し、後半の章では既に解説した基礎知識の習得を前提に、発展的な内容の解説を行うことでネットワークを全般的に学習させることである。
以上の例から資格試験参考書の教育手法についてまとめる。まず資格試験参考書は、対象の資格試験の合格という明確な目標があり、資格試験によって学習すべき知識の水準が明確に決まっている。次に学習対象者は、資格試験の取得を目指す者であり、教材の中で出題範囲のすべての内容が解説されているため、初学者でも学習することが可能である。続いて構成は、出題範囲の内容をできるだけ細かいステップに分割し、複数の章や、節から構成されており、各節では、各テーマについて集中的に学習させる。教育手法は、テーマごとに基礎的な解説を行った後、確認問題によって学習結果の確認を行い、知識の習得をさせるというものである。
ここでは問題集としてWebサイトで公開されている資格試験対策の問題集を例に挙げ、目的や対象とする学習者、構成、用いている教育手法などの紹介をする。そこから問題集の構成や教育手法についてまとめる。
ここでは問題集の例として、『ping-t』[3]という総合学習サイトのCCNAの資格対策Web問題集について考察する。この教材の目的は、学習者に問題やその解答、解説によってCiscoのベンダ資格であるCCNA/CCENTの試験程度の問題に正しく解答できるための技術や知識を習得させることである。扱う学習項目は受験するCCNAの資格試験の出題範囲を網羅するように設定されている。学習対象者はこの資格の取得を目指す者である。この教材の構成は全6分野からなり、例えば「ルーティング」の様に1つの分野は「ルーティング」、「スタティック」、「ダイナミック」、「RIP」、「EIGRP」、「OSPF」、「アクセスリスト」、「NAT」のように複数の項目から構成される。また各項目は、扱うテーマに関する問題とその解答、解説で構成されている。教材に用いている教育手法は、既に試験範囲の学習項目について学習済みの者とそうでないものとで分けられる。まず、学習済みの者には、問題を解くことで対象である資格試験の出題形式に慣れさせ、出題傾向や解法のテクニックを知ること、学習者の知識の確認および誤った理解を無くすことで、試験問題に正答できるようにするというものである。一方、未学習者には、問題の解説から知識を学習させ、問題を解くことで知識の確認および誤った理解を無くし、試験問題に正しく解答できるように学習させるというものである。教材の特徴は、この教材で学習することにより資格試験などの問題を実際に解けるようになるなど、学習結果について明確な結果を出せることである。また、問題の内容は受験する資格試験の出題形式に合わせて、試験で過去に出題された問題の類題や創作問題であり、多くの問題を解くことで試験に出題される重要な知識を学習項目ごとに重点的に学習できることが挙げられる。
以上の例から問題集の教育手法についてまとめる。まず、問題集の目的は、試験対策用であれば、試験の問題に正答できるようにさせるという明確な目的がある。また、一般の問題集であれば、ネットワークについての知識を確認させることやネットワークについて課題を解決できるようにさせることが目的となる。次に、学習対象者は、資格試験対策用であれば資格の取得を目指す者であり、それ以外では、ネットワークについての知識を確認したいあるいはネットワークについて課題を解決できるようになりたい者である。また、問題集という特性から出題範囲の学習項目の知識については、学習者は既に学習済みであることが前提である。しかし、解説を読むことで初学者にも学習は可能である。構成は、試験対策用の問題集であれば、過去に試験に出題された問題やその類題や解説からなり、一般の問題集では創作問題と解説などから構成される。教育手法は、問題を解かせることでネットワークの知識が正しく理解できているかを確認し、解説によって知識の再確認と誤った理解を無くすというものである。そのため、出題範囲を既に学習済みの者に、知識の再確認や課題解決の方法を学ばせるというものである。
ここでは教科書についてリテラシー教育書と専門書を例に挙げ、目的や対象とする学習者、構成、用いている教育手法などの紹介をする。それらから教科書の構成や教育手法についてまとめる。
ここではリテラシー教育書の例として、小高 知宏による『TCP/IPで学ぶコンピュータネットワークの基礎』[4]について考察する。この教材の目的は、大学や専門学校、高専などの講義で利用される事を前提に、半期(14回)の講義でコンピュータネットワークの基礎的な概念を一通り学習させることである。扱う学習項目は「ネットワークアーキテクチャ」や「物理層のプロトコル」から「データリンク層のプロトコル」や「アプリケーションプロトコル」までである。学習対象者は、大学や専門学校、高専の学生、あるいはネットワーク技術の基本を押さえておきたい技術者や、教養としてネットワーク技術を体系的に学びたいという一般の人である。教材の構成は全7章からなり、各章は「ネットワークアーキテクチャ」や「ネットワーク層のプロトコル」のように扱うテーマが決められている。さらに、各章は「ネットワーク層の機能」や「IPデータグラムとIPアドレス」など複数のテーマに絞って構成されている。教材に用いている教育手法は、学習対象をできるだけ細かいステップに分割し、用語や概念を図や写真を使ってそれぞれ半ページから1ページ程度で解説するというものである。教材の特徴は構成されている章を順番に学習することでネットワーク全般の知識を体系的に学習できることであり、概念や用語についての解説が主であることが挙げられる。また、学習結果を確認するような項目や問題、章や節の内容をまとめたものなどはなく、大学などの学校側で問題を作成し、試験を行うことで理解を確認する必要がある。
ここでは専門書の例として、アンドリュー・S・タネンバウムによる『コンピュータネットワーク』[5]について考察する。この教材の目的は、無線LANやIP電話、携帯電話、セキュリティなどの最新技術を網羅し、ネットワークの基礎から応用までを図や表を用いて徹底的に解説し学習させることである。扱う学習項目は「コンピュータネットワークの目的」から「物理層のプロトコル」や「データリンク層のプロトコル」、「アプリケーションプロトコル」、「ネットワークセキュリティ」までとネットワークにおけるすべてを網羅しているといっても良いだろう。学習対象者は、ネットワーク技術者や理工系の学生、SEなどであり、その道の専門家や専門教育を受けて来た者が対象である。教材の構成は全9章からなり、各章は「物理層」や「ネットワーク層」のように扱うテーマが決められている。さらに各章は「ネットワーク層の設計課題」や「ルーティング・アルゴリズム」などの複数の節からなり、節もさらに細かいテーマを扱ったものが複数集まって構成されている。教材に用いている教育手法は、扱っている幅広く深い学習範囲を細かいステップに分割し、用語や概念を図や写真を使って徹底的に解説するというものである。また、学習結果を確認するような問題が節に用意されているが、問題にあわせた解答は用意されていないため本文を読んで理解することが必要である。さらに、章や節では学習した内容の要点をまとめたものが用意されている。教材の特徴は、教材の扱うテーマについて専門的な知識を持ったものがさらに幅広く深い知識を得るためのものであり、専門教育を受けていないものにとっては読むことは非常に困難であり、初学者に理解させることは現実的ではない。
以上の例から教科書の教育手法についてまとめる。まず、教科書の目的は、学習者の求める知識について解説し理解させることであり、主に概念や用語などの解説で構成される。また、学生向けの一般的な教科書では、説明に終始するものが多く、学習結果の確認などについては教材では扱っていないことが多い。次に、学習対象者は、専門書と入門程度の教科書で大きく分けることができ、専門書であれば専門教育を受けた者や受けている者、あるいは専門家などである。これは専門書の学習範囲が幅広く内容も深くなっており、専門的な基礎知識がないと概念や理論などを理解することは困難なためである。一方、入門的な内容を扱う教科書では、概念や用語について簡単にまとめたもので構成されるため、専門知識が無い者でも学習可能である。教育手法は、扱う学習範囲を細かなステップに分割し、概念や用語についての解説がなされている。入門的な教科書では学習結果を確認する問題などを扱っていないことが多く、知識の確認などが別途必要になる。
ここでは入門書の例としてネットワークの基礎を扱う入門書を挙げ、目的や対象とする学習者、構成、用いている教育手法などの紹介をする。そこから入門書の構成や教育手法についてまとめる。
ここでは入門書例として、網野 衛二による『3分間ネットワーク基礎講座』[6]について考察する。この教材の目的は、学習者にIT技術者といえる程度までのネットワークの知識をわかりやすく解説し理解させることでる。扱う学習項目は、「ネットワークとは」といった話から「DNS」や「HTTP」などのアプリケーション層のプロトコルまでである。学習対象者は、ネットワークの初学者や学習に挫折した者などを含めた全ての学習者である。教材の構成は全5章で、各章は複数の講座からなり、各講座は短時間で学習できるように短くまとまっている。また、各講座は「ネットワークとは」や「レイヤ3 ルータ」、「レイヤ3 ルーティングテーブル」のように決められたテーマについて、「博士」役と「ゼミ生」役のキャラクターの会話形式で学習が進み、図や表などを用いて概要や動作について解説し、最後に要点をまとめたものを示すという構成である。用いている教育手法は、学習項目を細かなステップに分割し、「教育者」と「学生」のような立場の二人の会話形式で疑似的な講義を学習者に受けさせ、最後に要点をまとめたもので知識を整理させるというものである。教材の特徴は、キャラクター同士のストーリー性を持った会話形式で学習が進んでいくことや、1回の講義の内容が短く複数回の講義で1つの内容を説明することもあることである。また、例え話などを多く利用することで、学習者の躓きやすい内容を噛み砕いて解説していることなども挙げられる。
以上の例から入門書の教育手法についてまとめる。まず、入門書の目的は、書籍ごとに異なるが、一般的にはネットワークの初学者や他の学習法で学習できなかった者などに内容を噛み砕いて説明することで、学習者にネットワークの知識を習得させることである。また、学習の到達目標は、あいまいに設定されていることが多く明確でない。学習対象者はネットワークの初学者や他の学習法で学習できなかった者などであり、教材によって扱う範囲や内容は様々である。構成は入門書によって扱う内容や重点を置く項目がバラバラであり、ストーリー性を持って全体が構成されているものや、教材の中で教師が疑似的に講義を行うなど設定を用いるものなど多種多様である。また、教育手法は、概念などの説明に図やたとえ話などを多用するなどし、学習者が躓かないようにできるだけやさしく解説している。また、挫折者なども対象としているため学習に興味を持ってもらえるように教材ごとに教授法を工夫している。例えば上記の例では、学生と教師の会話形式にすることで、学生と一緒に学習しているような教授法である。しかし、一方で、わかりやすくするためにたとえ話などが多くなることによって、学習量に対して得られる知識量が少ないなどの問題もある。さらに、学習量が増えることで学習者の学習意欲は低下するためバランスが重要になる。最後に入門書は筆者がその道に専門家でないこともあるため、間違った知識などをつけさせてしまう問題点もある。
最後に特殊な教材の例として、日本科学未来館で常設展示されている『インターネット物理モデル』[7]について、目的や対象とする学習者、構成、用いている教育手法などの考察を行う。
図1 インターネット物理モデル
図2 ルータ 図3 送信機
この教材の目的は、展示物を見たり使ったりしながら、インターネットについての理解を深めたり議論を行う場として活用されていくことである。扱う学習項目は、2進数で情報を送るということをテーマに、パケットのヘッダとデータの考え方から基本的なルーティング、セキュリティに至るまでを扱っている。学習対象者は子供から大人までである。教材の構成は、複数のデータ送受信機(図1)とルータの役割をもつ複数のタワー(図2)を繋いだレールからなり、学習者が送信機で白と黒のボールを用いて図3の下部のようにパケットを作成し、送信機から送信したパケットがタワーに設置されたセンサによって認識され、いくつかのタワーを経由して宛先の受信機へと伝送されるというものである。教材に用いている教育手法は、白と黒のボールを用いてパケットを作成させ、送信機から送信したパケットがいくつかのルータを経由して宛先の受信機へと伝送される様子から、物理現象として視覚的にルーティングやパケットの構造を学習させるものである。教材の特徴は、ルーティングを物理現象として捉えることで視覚的に学習をさせるだけでなく、パケットを作成することによって宛先のアドレスを示すヘッダとデータというようなパケットの構造についても視覚的に学習をさせられることである。さらに、伝送途中にボールを損失するとそのデータについてはルータによって破棄されることや、レールを流れるボールを見ることで情報を盗聴できるといったセキュリティについても視覚的に学習が行えることがある。他にも、日本科学未来館に常設展示されているため、入場料を払うことで誰でも見学や実際に利用することが可能であることが挙げられる。
ここでは、新入社員教育用の教育教材に適するのは、2.1で取り上げた既存の教育教材の特徴から資格試験参考書の用いている教育手法であることについて解説する。また他の教育手法が適さない点についても述べ、教材に求められる条件についてまとめる。
まず、本研究の目的とする教育教材には新入社員にネットワーク技術者としての教育を開始できる程度のネットワークの基礎知識を習得させるという明確な目標が設定されており、ネットワークについての学習経験のないものも教育対象としているため、初学者にとって学習効果が高い必要がある。さらに、学習結果についてフィードバックを行う必要性が考えられるため知識の理解度を確認する必要がある。それに対して、資格試験参考書は2.1で述べたように対象の資格試験の合格という明確な目標があり、基礎的な解説を行ったあと確認問題によって学習結果の確認を行うため、初学者にとっても学習効果が高く、フィードバックが行いやすい特徴がある。そのため、資格試験参考書は学習水準が新入社員教育レベルではないものの、教育手法としては適していると言える。
次に、他の教材の教育手法が適さない点を挙げる。まず、問題集の教育手法における問題点は、問題集という特性から出題範囲の学習項目について学習者は既に学習済みであることが前提であり、初学者は解説を読むことで学習可能であるが効率的な学習方法ではない点が挙げられる。また、問題集は問題を解く手段の習得を目的とするため、基礎知識の習得を目的とする教材に適さない点がある。次に、教科書の教育手法における問題点は、概念や用語の解説などに終始するものが多く、学習結果の確認については教材で扱っていないものがほとんどである。これは学習結果を確認する必要がある新入社員教育には適さないと言える。続いて、入門書の教育手法における問題点は、学習の目的や到達目標についてあいまいに設定されていることが多く明確でない点がある。また、学習テーマが偏っているものやたとえ話などが多くなることによって、学習量に対して得られる知識が少ないことなどがある。そのため、目的とする教材のように明確な到達目標を持つ時、学習量に対して得られる知識量が低いことは効率的な学習とは言えず、学習者の学習意欲低下を招く恐れがある点が挙げられる。最後にインターネット物理モデルの教育手法における問題点は、教材が固定されているため学習場所や時間が限定されることである。新入社員教育は教材によって学習場所や時間などの制約を受けることは理想的ではないため、目的の教材には適さないと言える。以上のことから教材に求められる条件は・明確な到達目標を持つこと・初学者が学習しやすいこと・理解を確認できる問題があること・扱う学習要素を吟味し、文章量を減らすことで学習効率を高めること・教材の持ち運びが可能なことである。
ここでは、本研究で作成したネットワークの教育教材について述べる。
ここでは、2.2で導いた条件を満たすために作成した教材の検討を行う。まず、教材の到達目標を設定し、続いて用いる教育手法と構成について述べる。最後に教材で扱う学習項目について、既存のネットワークの教育教材などで一般的に取り扱われている項目をもとに検討を行う。
作成した教材の到達目標は、新入社員にネットワーク技術者の教育を開始できる程度のネットワークの基礎知識を効率良く習得させることである。具体的には、大学4年生程度の知識を習得している者を対象に、ルーティングについて新人研修を受ける前に必要だと思われる基礎知識を効率良く習得させることである。ただし、学習対象者は必ずしもネットワークの知識を有していないものとする。
ここでは、作成した教材に用いる教育手法および構成について述べる。教材には2.2で述べたように資格試験参考書で用いている教育手法を採用した。この教育手法は、教育課程の理論と実践[8]で述べられているプログラム学習法という教育手法である。プログラム学習法は、主に教育者を必要とせず、学習者自身が教材を用いて各自の速さで自主的に独習する学習法であり、いくつかの構成原理がある。構成原理は、スモールステップの原理(教育目標を達成するまでの段階をできるだけ細かく分ける)、積極的反応の原理(ステップごとに積極的に学習したいという意欲を喚起する)、フィードバックの原理(学習結果の確認をして誤答の場合は再学習する)、学習者検証の原理(教師が作成したプログラムの是非は学習者の発達との一致度によって最終的に検証される)などである。そこで、教材の構成は、学習対象のルーティングについて要点をまとめた「要約」、学習結果の確認をして誤答の場合は再学習をするための「クイズ」、最後に復習にあたる内容をまとめた「まとめ」からなる3部構成で作成した。
ルーティングについて、新入社員教育を受ける前に必要と思われる基礎知識とはどの程度の内容であるかを考察する。まず、既存のネットワークの教育教材において、ルーティングの教育に一般的に扱われている項目を列挙する。まず一般的に取り扱われている項目は、「ネットワークアーキテクチャ」、「階層」、「通信プロトコル」、「IPアドレス」、「クラスフルアドレス」、「クラスレスアドレス」、「サブネッティング」、「グローバルアドレスとプライベートアドレス」、「ルーティングの原理」、「ルーティングの動作」、「ルート情報の登録」、「ルーティングプロトコルの分類」、「ルート集約とロンゲストマッチ」、「RIP」、「OSPF」、「BGP」、「複数のルーティングプロトコルの利用」などである。しかし、これらは必ずしもルーティングの学習において必要でないと考えられる。例えば、ルーティングを学習する上でOSI基本参照モデルやTCP/IPプロトコルスタックの知識を持っていることは、ネットワーク全体や他の技術との関係性などを学ぶことができるため大変有効である。しかし一方で、ルーティングのみについて教育する場合には、これらの項目を含めずとも教育は可能である。また、これらの要素を含めることで教材の内容量が増加してしまい、学習効率と学習者の学習意欲が低下することも考えられる。そこで、効率的に学習させるために、各項目について作成した教材で扱うべきか否かの検討を行う。
ここでは、3.1.3.1で挙げた教育教材で一般的に取り扱われている各学習項目について、作成した教材の中で取り扱うべきか否かを考察し取り扱うとした項目とその理由について述べる。まず、「IPアドレス」と「サブネッティング」について考察する。IPアドレスについては、IPアドレスの特徴であるネットワーク部とホスト部の階層構造であることの解説のみを扱うことにする。サブネッティングについては、IPアドレスのさらなる階層化について解説し、合わせてサブネットマスクについても解説する。これらの知識はルーティングテーブルとの関わりが深いため解説すべきである。次に「ルーティングの原理」と「ルーティングの動作」について考察する。ルーティングの原理および動作は、ルータのインタフェースにIPアドレスを割り当て、異なるネットワーク間を接続し、ルーティングテーブルの情報を設定することで、ルーティングテーブルに基づいてデータを伝送する経路を選択するというものである。こうした原理や動作はルーティングの本質といえる内容であるためルータの機能と合わせて解説すべきである。続いて「ルート情報の登録」では、スタティックルーティングおよびダイナミックルーティングについて考察する。これらはルーティングテーブルの作成において重要な知識であり、二つの設定法の特徴や利用される場面が対照的であることを効率よく学習するために、二つを比較するように解説すべきだと考える。加えて、設定後に宛先との通信が可能かどうかを確認する手段としてpingというツールについて紹介する。これはpingがネットワークの構築、管理、運用において利用される機会が多く、トラブルの対処などにも利用できるためここで学習することが有効であると考えたからである。続いて、「ルーティングプロトコルの分類」と「RIP」、「OSPF」について考察する。これらは、ルーティングプロトコルとダイナミックルーティングとの関係やIGPとEGPなどのルーティングプロトコルの分類ついて解説する。ルーティングプロトコルの原理は複雑であるためEGPとIGP、および今後学習者が携わることが予想されるIGPの主なプロトコルであるRIP、OSPFについて紹介程度に扱う必要がある。したがって、作成した教材で扱う学習項目は、「IPアドレスの役割や特徴」、「サブネッティング」、「ルーティングの原理」、「ルーティングの動き」、「ルータの機能」、「スタティックルーティングとダイナミックルーティング」、「ping」、「ルーティングプロトコルの分類」とし、本研究では以上の知識について効率よく学習させたい。
ここでは、3.1.3.1で挙げた教育教材で一般的に取り扱われている各学習項目について、作成した教材の中で取り扱うべきか否かを考察し取り扱わないとした項目とその理由について述べる。まず「ネットワークアーキテクチャ」と「階層」、「通信プロトコル」について考察する。既存の教材ではこの項目に該当する内容として、OSI参照モデルとTCP/IPプロトコルスタックについての紹介が行われている。主にOSI参照モデルの各層について1層から、または7層から順を追って解説し、OSI参照モデルに基づく各層の通信プロトコルの紹介、および解説を行っている。ルーティングを学習する上でこれらの知識を理解していることは、ネットワーク全体や他の技術との関係性などを学ぶことができるため大変有効である。しかし一方でルーティングついてのみ教育する場合には、これらの項目を含めずとも教育は可能である。また、これらの要素を含めることで教材の内容量が増加してしまい、学習効率と学習者の学習意欲が低下することも考えられる。そのため、これらのネットワークアーキテクチャや階層、IPを除くプロトコルについては作成した教材では取り扱わないことにした。次に「クラスフルアドレス」と「クラスレスアドレス」、「グローバルアドレスとプライベートアドレス」について考察する。IPアドレスはルーティングにおいてネットワークアドレスや宛先アドレスなど必要不可欠な知識である。しかしIPアドレスについての内容を扱いすぎることで教材全体の内容量が増えてしまうことは学習意欲の低下へとつながる。まず、クラスフルアドレス、クラスレスアドレスについては、IPアドレスの割り振りなどネットワーク設計の学習において行うことでより高い学習効果が得られると考える。続いて、グローバルアドレスとプライベートアドレスは、アドレス変換技術であるNATやIPマスカレードと深く関わっているためルーティングと関連させることは効率的ではないと考えた。そのため、ルーティングとの関わりに対して他の技術との関わりが深いこれらの項目については、作成した教材に含めることは非効率的と考えたため作成した教材では取り扱わない。続いて「BGP」と「ルート集約とロンゲストマッチ」について考察する。学習者はルーティングプロトコルのEGPについては今後携わることがほとんどないと予想されるため、その代表的例であるBGPについても本教材では取り扱わない。次に、ルート集約とロンゲストマッチについてはルーティングの本質的な原理、動きを学習する内容ではなく、かつ学習するためにはIPアドレスなどの詳しい知識が求められるため発展的内容にあたると考えられる。そのためこの項目はルーティングの基本的内容の習得を目的とする教材には適さないと判断したため作成した教材では取り扱わない。最後に「複数のルーティングプロトコル」について考察する。複数のルーティングプロトコルの併用について学習するには、各ルーティングプロトコルについて詳しく理解している必要がある。しかし、本研究の目的はルーティングの基本的内容を理解させることであるため、各ルーティングプロトコルについては詳しく解説する必要はない。よって複数のルーティングプロトコルについては作成した教材では取り扱う必要はないと判断した。したがって、以上の学習項目は教材の中で取り扱わない。もちろん、教材の中で取り扱わないとした項目についても、これらの知識が必要ないわけではなく、ルーティングとは学習を分けるだけである。すなわち、ネットワークの教育としては、別のテーマを学習させる教材を別途作成し、これらの項目を取り扱う必要がある。
ここでは、ルーティングについて要点をまとめた教材である「要約」について、目標や構成、章ごとの到達目標、作成した教材の解説や注意した点などを述べる。
「要約」の目標はスモールステップの原理(教育目標を達成するまでの段階をできるだけ細かく分ける)と積極的反応の原理(ステップごとに積極的に学習したいという意欲を喚起する)に基づいて、3.1.3.2にて教材で扱うとした項目について効率良く学習させることである。
「要約」は、3.1.3.2において教材で扱うとした各項目をスモールステップの原理に基づいて、9つの章に細かく分割して構成した。構成内容は「まえがき」、「ルーティングとは」、「異なるネットワークの間の通信に必要なもの」、「ルーティングの設定」、「スタティックとダイナミックの利用」、「ルーティングプロトコルの種類」、「ping」、「サブネットルーティング」、「Windowsの設定」である。
ここでは、「要約」の章ごとの到達目標について述べる。まず、「まえがき」の章では、学習を始めるにあたり、学習者にルーティングについて興味と学習するという目的意識を持たせることを目標とした。次に、「ルーティングとは」の章では、ルーティングの概要の把握とルーティングを学びたいという学習意欲を喚起することを目標とした。続いて、「異なるネットワーク間の通信に必要なもの」の章では、「IPアドレスの役割や特徴」と「ルーティングの原理」、「ルーティングの動き」、「ルータの機能」について扱い、ルータという機器によって異なるネットワーク間での通信が行われることを理解させることを目標とした。「ルーティングの設定」の章では、「スタティックルーティングとダイナミックルーティング」について扱い、二つの設定法の特徴を対比しながら理解させることやダイナミックルーティングとルーティングプロトコルの関係を理解させることを目標にした。「スタティックとダイナミックの利用」の章でも、「スタティックルーティングとダイナミックルーティング」について扱い、スタティックルーティングとダイナミックルーティングの状況による使い分けを理解させることを目標とした。「ルーティングプロトコルの種類」の章では、「ルーティングプロトコルの分類」について扱い、ルーティングプロトコルは大きく分けてEGPとIGPに分類されることや学習者が今後携わる機会の多いIGPの代表的なルーティングプロトコルである、RIPとOSPFについて知ってもらうことを目標とした。「ping」の章では、pingというツールについて利用する状況を含めて知ってもらうことを目標とした。「サブネットルーティング」の章では、「IPアドレスの役割や特徴」、「サブネッティング」について扱い、サブネットマスクの解説と合わせて、ネットワーク部とホスト部の識別について学習させ、サブネットとはどういうことかを理解させることを目標とした。最後に「Windowsの設定」の章では、IPアドレスやサブネットの実際の設定例を示すことで、学習者に実際の設定を身近に感じてもらい、経験してもらうことを目的とした。
ここでは、教材に求められる条件を満たし、到達目標を達成するために「要約」を作成する上で意識した点や注意した点について述べる。
ここでは、「要約」を作成する上で、教材に求められる条件や章ごとの目標を達成するために意識した点について解説を行う。まず、「まえがき」の章では、学習者にルーティングについて興味を持ってもらうために、学習者にとっても身近で利用経験のあると思われるWebページの閲覧や電子メールをキーワードとして挙げてからルーティングへと話を進めた。さらに、学習者にルーティングについて学ぶという目的意識を持たせるために今回学習するテーマについて明言した。次に「ルーティングとは」の章は、ルーティングとは何を意味するのかとルーティングの存在意義を説明する内容とした。これは、学習のはじめに学習対象の概要を知ることで、以降のより深い内容について理解を促進させることと存在意義を説明することでその知識を学ぶ必要性を知り、学習者の学習意欲を喚起させる目的がある。続いて「異なるネットワーク間の通信に必要なもの」の章では、ルータの機能やルーティングテーブルについて解説し、ルーティングの原理を理解させるようにした。また、ルータは複数のインタフェースを持ちネットワーク同士をつないでデータを中継する機器というように具体的にルータの機能を説明することで、「ルーティングとは」の内容と合わせてルータがルーティングにおいて最も重要な存在であることを強調する内容とした。ルーティングテーブルでは、保持する情報を箇条書きにすることで説明と合わせて内容が少なく効率的に理解できるようにした。「ルーティングの設定」の章では、スタティックルーティングとダイナミックルーティングについて解説した。スタティックルーティングでは、管理者が手動でルーティングテーブルを作成するのに対して、ダイナミックルーティングでは、ルーティングプロトコルを使ってルータ同士が自動でルーティングテーブルを作成するといったように、両者の特徴を対比しながら学習できるように努めた。また、ダイナミックルーティングはルーティングプロトコルによってルーティングテーブルを自動で作成するというようにダイナミックルーティングとルーティングプロトコルの関係についても理解できるように合わせて解説した。さらに、スタティックルーティングのメリットとして、無駄な計算やネットワークへの負荷がないことや、ダイナミックルーティングのメリットとして、トラブルが起こった際に自動で経路変更をする冗長性の高さなどを挙げることで、両者の性格の違いを対比しながら理解できるようにした。「スタティックとダイナミックの利用」の章では、「ルーティングの設定」で挙げたスタティックルーティングのメリットについてスタブネットワークの図を例に、適用すべき状況を紹介した。また、それに対して複数のルータによって他のネットワークと接続されている場合はダイナミックルーティングを利用することで管理が容易になるというように両者を対比し、状況に応じて使い分けることが必要であることを学習できるようにした。「ルーティングプロトコルの種類」の章では、ルーティングプロトコルの説明を簡単にした後、AS間あるいはAS内によってEGPとIGPに分類できることを説明し、最後にIGPの代表的なものとしてRIPとOSPFについて紹介した。ここで学習者にとって多く関わるのはIGPという表現を加えることで、IGPについて学習するという目的意識を高め、その後のRIPやOSPFについて学生が集中して学習するようにした。「ping」の章では、pingというツールについて使用する場面、状況を含めて紹介した。また、実際の表示例やエラーの表示を紹介することで学習者に興味を持たせ、学習意欲の向上を図った。「サブネットルーティング」の章では、サブネットマスクとはなにか、サブネットとはなにかを簡単に説明し、それにより得られるメリットについて理解できるようにした。最後に「windowsの設定」の章では、身近なOSであるWindowsにおけるIPアドレスやサブネットマスク等の設定画面を紹介した。これにより学習者にIPアドレスやサブネットマスクの設定が身近なところで知らないうちに行われていたことや、設定の変更を自分でできることを示し、学習者が今後もネットワークについて学習していくように興味を持てる内容とした。
「要約」の作成において注意した点を以下に述べる。まず、学習者の学習意欲の低下防止や重要な点を効率良く学習させるために、教材の内容量を減らすように注意した。また、スモールステップの原理基づいて、内容を細かく複数の章に分けることで、一つ一つの章を短くまとめるように注意した。さらに、他の章で学んだ知識を関連させることで流れの中で理解できるように、前の章で扱った内容と後の章で扱う内容をリンクさせるような構成となるように注意した。また、単にネットワークを学習させるという視点ではなく、今後ネットワーク技術者となるという視点から扱う内容やネットワークの状況を吟味した。最後に、実際の設定画面を載せることで学習のイメージを持ちやすく、学習者が興味を持ちやすくなるよう注意した。
ここでは、「要約」で学習した結果を確認するための「クイズ」について、目標や構成、到達目標、作成した教材の解説や注意した点などを述べる。
「クイズ」の目標はフィードバックの原理(学習結果の確認をして誤答の場合は再学習する)に基づき、学習者が要約で解説した3.1.3.2にて教材で扱うとした学習項目について正しく理解できているかを確認することである。また、学習者が理解できていない場合、あるいは誤って理解している場合には再度解説によって正しく理解させることを目標とした。
「クイズ」は、要約の各章の要点について学習者が理解しているかを判断するために、問題とその解答および解説から構成している。問題の出題形式は○×形式や正しいものや誤ったもの、あるいは正しい組み合わせを複数の選択肢から選択させる選択形式とした。○×形式や選択形式の問題を採用した理由は、記述式など多様な解答が出てくる問題では、学習者自身が解答や解説を見て自身の理解が正しいかを正確に判別することが難しいのに対して、○×形式や選択形式の問題は学習者の理解を解答の選択によって正確に判断できると考えたためである。
ここでは、教材に求められる条件を満たし、到達目標を達成するために「クイズ」を作成する上で意識した点や注意した点について述べる。
ここでは、「クイズ」を作成する上で、教材に求められる条件や目標を達成するために意識した点について解説を行う。「クイズ」は、「要約」の各章ごとの要点を確認するように以下のように作成した。まず、「まえがき」の章には問1の問題が対応する。問1では、ルーティングによって実現することを理解できているか○×形式の問題で確認する。解説では、「要約」の「ルーティングとは」でルーティングについて説明した内容を用いてルーティングとは、なんであるかとそれにより実現する内容について述べた。次に、「ルーティングとは」の章には問2の問題が対応する。問2では、ルーティングとはなにかを記述した文章を選択する形式とした。また、間違った選択肢の文章にはスタブネットワークとサブネッティングを扱うことで、同時に他の章での知識も確認できるようにした。解説では、誤った選択肢のスタブネットワークについてはスタティックルーティングとの関係と合わせて解説し、サブネッティングについてもサブネットマスクと合わせて解説を行った。続いて「異なるネットワーク間の通信に必要なもの」の章には問3、4、5が対応する。問3では、ルーティングにはルータという機器が重要であることを強調する問題とし、また選択肢にEメールアドレスを出すことで解説では、ルーティングに必要なものとしてIPアドレスについても解説できるようにした。問4では、IPアドレスの特徴について誤ったものを選択することによりIPアドレスの特徴について知識を整理できるようにした。解説では、IPアドレスの特徴についてもう一度解説を行った。問5も同様に、ルーティングテーブルに保持されない情報を選択させることでルーティングテーブルについての知識を整理できるように出題した。解説では、再度ルーティングテーブルの保持する情報について説明し、誤答についても正しい知識を解説した。「ルーティングの設定」の章には問6の問題が対応する。スタティックルーティングとダイナミックルーティングは対照的な特徴をもつため、それを正しく理解しているかを確認できるようにした。選択肢を両者の特徴が対比しやすいようにすることでスタティックルーティングとダイナミックルーティングについての知識を整理できるようにした。解説では、スタティックルーティングの特徴とメリットデメリット、ダイナミックルーティングの特徴とメリットについてルーティングプロトコルとの関係を含めて改めて解説をした。「スタティックとダイナミックの利用」の章には問7の問題が対応する。この問題ではスタブネットワークの図を示しスタティックルーティングの適応状況について確認した。解説では、スタティックルーティングの適用についてスタブネットワークの状況でのメリットを説明した。また、ダイナミックルーティングの適用が推奨される状況についても紹介し、その特徴を説明した。「ルーティングプロトコルの種類」の章には問8の問題が対応する。ルーティングプロトコルは大きく二つに分けられることやルーティングプロトコルの名称について確認した。選択肢にRIPやOSPFを混ぜることでこれらのルーティングプロトコルについても理解できているかを確認できるようにした。解説では、ルーティングプロトコルの分類方法や各名称について再度解説し、RIP、OSPFとIGPの関係について説明した。「ping」の章には問9の問題が対応する。この問題ではpingとはなにかを他の章で学んだ知識とともに整理できているかを確認した。解説では、pingの説明と利用例などを再度紹介した。「サブネットルーティング」の章には、問10の問題が対応する。この問題ではサブネットを示す文章に対してサブネットという名称を結びつけられるかを確認した。また、選択肢には他の章で学んだものを含めることで、他の章も含めて学んだ知識を正しく理解しているかを確認している。解説では、IPアドレスやサブネットマスクを含めてサブネットについてもう一度説明した。「Windowsの設定」の章には問11の問題が対応する。この問題では、IPアドレスやサブネットマスクが自分で設定や変更でき、学習に役立てられることを理解しているか確認した。解説では設定画面を示して解説を行った。
「クイズ」の作成において注意した点を以下に述べる。まず、要約の章ごとに重要な点について正しく理解できたかを確認できるような問題となるようにした。また、選択形式の問題については正解でない選択肢にも合わせて確認してほしい知識や、他の章の学習項目などを挙げることで、これらの知識を関連付けて整理できるように注意した。また、IPアドレスやルーティングテーブルの問題では、正しいものを選ばせるのではなく誤っているものを選ばせる問題とした。これは選択肢を読んだことで誤った知識が学習者の頭に残ることを避ける目的である。これにより選択肢を読むというだけでも学習になるようにした。最後に、「要約」に出てきていない内容についてはできるだけ触れないようにし、新たに解説しなければいけないものが出ないように注意した。
ここでは、「要約」と「クイズ」から学習した知識について要点をまとめた「まとめ」について、目標や構成、作成した教材の解説や注意した点などを述べる。
「まとめ」の目標と構成について以下に述べる。まず、目標はフィードバックの原理(学習結果の確認をして誤答の場合は再学習する)に基づき、学習者が要約とクイズによって学習した内容を効率的に復習し、重要な内容を整理させることである。続いて、構成は「要約」と関連付けて復習ができるように、「要約」の章ごとに重要な内容をまとめた構成とした。
ここでは、教材に求められる条件を満たし、到達目標を達成するために「まとめ」を作成する上で意識した点や注意した点について述べる。
ここでは、「まとめ」を作成する上で、教材に求められる条件や章ごとの目標を達成するために意識した点について解説を行う。「まとめ」は、各章ごとの要点を簡潔にまとめるように作成した。まず、「まえがき」と「ルーティング」の章では、身近なインターネットとルーティングの関係についてとルーティングとはなにかを簡潔に示した。次に「異なるネットワークの間の通信に必要なもの」の章では、ルータがネットワークの中継をする機器であることやIPアドレスの特徴、ルーティングテーブルの保持する情報について簡潔に示した。続いて「ルーティングの設定」と「スタティックとダイナミックの利用」の章では、ルート情報の設定法であるスタティックルーティングとダイナミックルーティングについて簡潔にまとめた。また、スタティックルーティングとダイナミックルーティングのそれぞれメリットデメリットを比較して知識を整理できるようにした。「ルーティングプロトコル」の章では、ルーティングプロトコルはAS間とAS内で大きくEGPとIGPに分けられることを述べ、IGPの代表的なものとしてRIPとOSPFがあるというようにIGPとRIP、OSPFの関係についてまとめた。「ping」の章では、pingというツールはどういうものかを簡単に示し、技術者として遭遇することが予想される障害発生時についての利用についてまとめた。「サブネッティング」の章では、サブネットとはなにかと、IPアドレスはサブネットを利用することでネットワーク部およびサブネット部とホスト部を識別できることを挙げた。これによりIPアドレスと、サブネット、サブネットマスクの関係を理解できるようにした。
「まとめ」の作成において注意した点を以下に述べる。まず、3.1.3.2にて取り扱うべきとした項目について「まとめ」の内容に過不足がでないように注意した。また全体の文章量を減らすことで、「要約」や「クイズ」によって理解してもらいたい重要な部分のみを各章ごとに効率的に確認できるように努めた。
ここでは、2で挙げた既存のネットワークの教育教材と今回作成した教材の比較を行い、今回作成した教材の目標達成度について考察する。
ここでは、2で述べた内容と重複するものもあるが、2で解説を行った既存のネットワークの教育教材と作成した教材とを比較し、作成した教材の優れている点について述べる。
ここでは、作成した教材と資格試験参考書とを比較し、作成した教材が有利な点について述べる。まず、資格試験参考書の内容について述べる。資格試験参考書は、対象の資格試験の合格という明確な目標があり、資格試験によって学習すべき知識の水準が明確に決まっている。次に学習対象者は、資格試験の取得を目指す者であり、教材の中で出題範囲のすべての内容が解説されているため、初学者でも学習することが可能である。続いて構成は、出題範囲の内容をできるだけ細かいステップに分割し、複数の章や、節から構成されており、各節では、各テーマについて集中的に学習させる。教育手法は、テーマごとに基礎的な解説を行った後、確認問題によって学習結果の確認を行い、知識の習得をさせるというものである。続いて、作成した教材と資格試験参考書の例としてソキウス・ジャパンによる『徹底攻略Cisco CCNA/CCENT教科書ICND1編』[2]について比較し、作成した教材の利点を述べる。この資格試験参考書は到達目標が資格試験の定める合格水準の知識の習得であるため、学習する技術の概要や動作、設定方法、検証方法、また動作のみを学習するのではなく実際の設定コマンドから検証までコマンド出力画面の図を通して学習する。しかし、設定コマンドや設定方法については一般的な知識ではなく、そのベンダのみの設定方法である。そのため、今回の研究の目的である新入社員教育レベルの教材としては難易度が高く、求められる知識を超えるものであるといえ、効率的な学習法とは言えない。しかし、作成した教材は扱う項目から構成までを新入社員教育で使える教材という目的のもと作成したため適切な難易度が設定されており、効率的な学習が可能である。また、教育手法としては資格試験参考書に用いられる手法を取り入れたため、同等の学習成果が期待できる。
ここでは、作成した教材と問題集とを比較し、作成した教材が有利な点について述べる。まず、問題集の内容について述べる。問題集は、問題集という特性から出題範囲の学習項目の知識については、学習者は既に学習済みであることが前提である。そのため、初学者が知識を習得するには、解説から知識を得るより他ない。また、問題集はネットワークについて課題を解決できるようにすることを目的に持つため、知識の習得に目的を置いていない。続いて、作成した教材と問題集を比較し、作成した教材の利点を述べる。問題集は学習対象者が学習経験のあるものであり、初学者が知識を習得することには向いていなく、ネットワークについて課題を解決できるようにすることを目的に持つため、知識の習得に目的を置いていない教材である。しかし、新入社員教育では初学者にネットワークの基礎的な知識の習得をさせることが目的となる。それに対して、今回作成した教材は、明確な到達目標を持ち、プログラム学習法に従って、目標に到達できるように基礎的な事項をまとめた「要約」と要約で学習した結果を確認するための「クイズ」、「要約」と「クイズ」で得た知識を簡潔にまとめた「まとめ」の3部構成としたため、「要約」で学習し、「クイズ」によって学習結果を確認し、「まとめ」によって知識を整理できるため、初学者にとって学習しやすく、ネットワークの基礎的な知識の習得に適しているという利点がある。
ここでは、作成した教材と教科書とを比較し、作成した教材が有利な点について述べる。まず、教科書の内容について述べる。教科書は、概念の理解や用語の解説に終始するものが多く、学習結果の確認などについては扱っていないことが多い。続いて、作成した教材と教科書を比較し、作成した教材の利点を述べる。教科書はネットワークの理論や用語などの知識の習得法としては効果が高いといえるが、教科書内で問題を解かせるといった内容がないため、学習した内容について学習者の理解がどの程度なのかを確認することができない。しかし、社員教育において学習者の学習結果を知ることは必須といえる。それに対し、今回作成した教育教材は、明確な到達目標を持ち、プログラム学習法に従って、目標に到達できるように基礎的な事項をまとめた「要約」と要約で学習した結果を確認するための「クイズ」、「要約」と「クイズ」で得た知識を簡潔にまとめた「まとめ」の3部構成としたため、「要約」で学習した内容をどの程度理解できているのかを「クイズ」によって確認し、フィードバックすることができる利点がある。
ここでは、作成した教材と入門書とを比較し、作成した教材が有利な点について述べる。まず、入門書の内容について述べる。 入門書は、初学者や挫折者などを対象に、内容を噛み砕いて説明することで、学習者にネットワークの知識を習得させる教材であり、挫折者なども対象としているため学習に興味を持ってもらえるように教材ごとに教授法も工夫している。学習の到達目標については、あいまいに設定されていることが多く目的は明確ではない場合が多い。また、書籍によって扱う内容や重点を置く項目がバラバラであり、たとえ話などが多くなることによって学習量に対して得られる知識量が少ないことなどがある。続いて、作成した教材と入門書を比較し、作成した教材の利点を述べる。入門書は学習者が躓かないようにたとえ話などをつかって学習内容を細かくかみ砕いて説明しているため、知識のない学習者にも学習が容易になるが、たとえ話や解説が多くなることで学習量に対して得られる知識量が少なく、学習量が増えことで学習者の学習意欲が低下しやすいなどの問題点がある。しかし、社員教育としては、限られた時間の中で最大限の学習効果を上げる必要がある。それに対して、今回作成した教育教材は、明確な到達目標を持ち、プログラム学習法に従って、目標に到達できるように基礎的な事項をまとめた「要約」と要約で学習した結果を確認するための「クイズ」、「要約」と「クイズ」で得た知識を簡潔にまとめた「まとめ」の3部構成としたため、少ない学習量で効率良くルーティングの基礎について学習することができる利点がある。
ここでは、作成した教材とインターネット物理モデルとを比較し、作成した教材が有利な点について述べる。まず、インターネット物理モデルの内容について述べる。インターネット物理モデルは、ルーティングを物理現象として視覚的に学習できる利点があるが、教材を動かすことができず学習場所や時間も限定されてしまう。続いて、作成した教材とインターネット物理モデルを比較し、作成した教材の利点を述べる。インターネット物理モデルはルーティングやセキュリティについて教材を通して物理現象として視覚的に学習ができるが、教材の移動が行えないため、学習場所や学習時間が限定されてしまう。しかし、社員教育としては、時間と場所が限定されることで学習効果が効果的に得られないことは望ましくない。それに対して、今回作成した教材はテキスト形式の教材であり、印刷し持ち歩くことでいつでもどこでも学習を行える利点がある。
ここでは、作成した教材が2.2で導いた目的の教材に求められる条件や到達目標に対して評価を行う。まず、今回の目的の教材に求められる条件は「明確な到達目標を持つこと」、「初学者が学習しやすいこと」、「理解を確認できる問題があること」、「扱う学習要素を吟味し、文章量を減らすことで学習効率を高めること」、「教材の持ち運びが可能であること」である。それに対して作成した教材は、新入社員を対象にネットワーク技術者としての教育を受けられる程度のネットワーク基礎知識をより効率的に学習させることという明確な目標を持っている。また、初学者が理解しやすいことや理解を確認できる問題については、教育手法にプログラム学習法を採用し目標を達成した。続いて、扱う学習要素は目的に合わせて必要なものを吟味し、さらに教材の全体および章ごとの文章量を減らすことで学習効率が高まるようにした。最後に、教材はテキスト形式で作成したため、印刷をすることでいつでもどこでも学習を行うことができる。以上のことから、目的の教材に求められる条件は全て満足していると言える。
本研究では、新入社員教育で利用するという学習についての到達目標を設定して教材の作成を行ったが、作成した教材は、設定したすべての条件を満たすことができたと言える。しかし、教材を短くまとめるために、図を使った説明が少ないなどの改善の余地が多く見られる。本研究を通して既存の教育手法には目的に応じてさまざまな手法があり、最大の効果を得るためには目的に則した学習法を選ぶことが重要であるということがわかった。そこで、今回のような条件での学習にはプログラム学習法が教育手法として適していることが導き出せた。また、ネットワークの教育教材には教育手法や、扱う要素によって教材の良し悪しがすべて決まるのではなく、構成やレイアウト、教材に載せる画像や説明に使用する例など、教材の良し悪しを決める要素が多くあり、こうした条件をすべて満たす教材を作ることは困難であるが、目的や学習対象者などを絞っていくことでより条件にあった教材の作成が行えることがわかった。
今後の課題としては、今回作成したルーティング以外のテーマについても教材を作成することや、教材の客観的な評価や改善点の発見をするために、実際に教育をすることなどがある。
教材は以下からダウロードしてください。